中学受験で国語が苦手な子の保護者は、どうやって点数を伸ばせばよいか悩むものです。国語は、算数のように計算力を付けたり、理科社会のように重要キーワードを覚えたり、といった明確な克服方法がありません。そのため国語が苦手な子の保護者はどうすればよいかと頭を抱えることも少なくありません。
国語を得意にするためにどうすればよいか、と考える中で多くの保護者が考えるのが読書をすることです。そもそも、本を読んだり、読書が好きな子は中学受験に有利なのでしょうか。また、せっかく読書をするなら中学受験で出題される文章を読みたい人もいるはずです。
この記事では、中学受験を志す受験生が読書をすることで得られる効果について紹介をしていきます。出題されている文章を読むことがなぜ良いとされているのか、そしてどのような本を読むのがおすすめなのかも合わせて紹介していきます。
読書習慣のある子は中学受験で有利なのか?
中学受験をされるご家庭で、「のちのちの国語の成績につながるはずだから、こどもに読書習慣を身につけさせるためにはどうしたらいいですか?」という質問されることがあります。
実際には、中学受験生の中で読書習慣がある子はどのくらいいるのでしょうか。また、読書習慣は本当に国語の成績に関係あるのかについてもお答えします。
小学生の半分くらいが読書習慣がある
とある大手進学塾で小学生のお子さまをもつ保護者の方にアンケートを実施した結果、約60%程度の保護者の方が「子どもに読書習慣がある」と答えたそうです。
さらに、「子どもに読書習慣がある」と回答した保護者を対象に、どのくらいの頻度で読書をしているかのアンケートでは「毎日」という回答が半分程度になったようです。
なお、子どもがよく読む本のジャンルとして、「小説」が圧倒的に多く、次いで「図鑑」、「伝記」という結果になっています。
必ずしも本が好きな子は中学受験で国語が得意とは限らない
中学受験をするにあたり、国語はどの学校でも必ず試験があります。なおかつ傾斜配点の学校でも国語は100点と配点が高く、できるだけ得意科目にしておきたいものです。国語の点数を上げるために多くの保護者は「国語力をつけなくては」「たくさん文章を読んで本を好きになってもらわなければ」と考えるのではないでしょうか。しかし、国語が得意な子が必ずしも読書が好きとは限りません。
たしかに本を読むことが好きな子の中には国語が得意な子はいます。しかし、中にはたくさんの問題を解いたことで国語の問題の解き方のテクニックが身についていることで得意になった子、点数が取れるようになった子もいるのです。そのため読書をさせること、本を読むのを好きにすることが、必ずしも国語を得意にするとは限らないのです。
本を読むことのメリットはある
読書をしたからといって中学受験の国語が得意になる、受験で有利になる、というわけではないなら読書はしなくていいと考える保護者もいるかもしれません。しかし、本を読むことのメリットはいくつかあります。そのため読書をすることは決して無駄になるわけではありません。
例えば、読書をすることで集中力がついたり、文章を読む速度が上がったりします。他にも、学習習慣がない子の場合には毎日決まった時間に読書をすることでルーティンをこなす習慣作りをすることもできます。国語の成績に関係なく、読書をすることによって得られることはあるのです。
中学受験をするなら読書習慣も含め読んでおきたいおすすめの本9選
ここからは、中学受験をする前提で、読書習慣を身につけるために、おすすめの本を紹介します。これから紹介する本が、必ずしも入試で出題されるとは限りません。
なお、国語の入試問題では、何度も出題されている出やすい本というものも存在します。読んでおくけば、それがそのまま入試本番で読んだことのある本が出題されることもあるのです。すでに読んだことのある本であれば、内容も理解しやすく答えも出しやすいですし、読んだことがあるということで緊張がほぐれたり落ち着いて取り組めたりする効果もあります。そういった中学入試に出題されやすいよく出る本が知りたい場合は、下記の記事をお読み下さい。
さらに、実際の中学受験 国語の出典・出題作品が一覧で見たいという方には、別の記事で紹介していますので、そちらを参考にして下さい。
これから紹介する本は、あくまでも読書習慣を身につけるための本であり、良質な読みやすくてきれいな言い回しを知ることができたり、思春期に多くの子が経験する友達や保護者との関係性の話を読むことで知見が広げられたりという効果もあります。
これから紹介する本を何冊か読んでおくことでのちの国語の力だけでなく、総合的ににも良い影響をもたらしてくれるはずです。とはいっても、実際の中学受験の入試問題で出題された本です。興味関心のあるもの、読みやすそうと感じたものからぜひ手に取ってみてください。ただし、そこまで入試直結のような意識ではなく、読書習慣を身につけるという意識でぜひお考え下さい。
「保健室経由、かねやま本館。」松素めぐり
2019年講談社児童文学新人賞を受賞している作品です。内容的にも中学受験でよく出題される、転校や不登校、友達グループからの孤立、といった内容が取扱われているため、思春期の子たちにとっては共感できる内容も多いでしょう。
学校の保健室の地下にある中学生専門の湯治場「かめやま本館」での子どもたちの交流の様子や、休憩することの大切さ、悩みと向き合っていく様子など、心温まる様子が描かれています。人気シリーズで現在3巻まで販売されているので、面白いと感じたらぜひ続きを読んでみましょう。
「線は、僕を描く」砥上裕將
2020年本屋大賞にノミネートされた作品です。両親を交通事故で亡くした大学生の主人公が水墨画の巨匠と出会い、水墨画に魅せられ悲しみから立ち上がっていく様子を描いています。
作者の砥上さん自身も水墨画家であるため、水墨画を描く様子もリアルで読んでいると水墨画への興味も湧くでしょう。文章もとても美しく読みやすいです。読み終わるとタイトルが「僕は、線を描く」ではなく「線は、僕を描く」である理由が理解できる内容になっています。
「かがみの孤独」辻村深月
2018年に本屋大賞を受賞している作品です。学校で居場所をなくして自宅に閉じこもってしまった主人公の「こころ」が不思議な鏡の世界に迷い込んだことで話が展開します。似たような境遇の7人と出会いストーリーが進んでいきますが、最後にしっかりと伏線が回収され、読み終わったあとには気持ちよさが残る結末です。
作者の作品は読みやすく、思春期の子どもたちにとって共感できる題材を取り扱っているものが多くあります。「家族シアター」「青空と逃げる」も中学受験では頻出作品なので合わせて読むと良いでしょう。
「つぼみ」宮下奈都
作者の代表作である「スコーレ№4」のスピンオフである3作品を含んだ短編集です。短編であるために普段本を読まない子やまとまった読書の時間が取れない子でも読みやすいでしょう。内容的にも決して難しものはなく、1作品あたり15分ほどで読むことができます。短編であるために入試問題としても出題しやすいこともあり、男子御三家である麻布と武蔵の両校でも出題されたことがあるということでも、読書のモチベーションが低い子も興味を持つきっかけになるのではないでしょうか。
作品内で取り扱われている題材は、恋愛やクラスになじめない経験など、思春期の子たちがぶつかる問題ばかりです。読んでいると普段の生活の中で自分にもリンクする内容が出てきて共感することができるものが多いですし、興味のある話から選んで読むのもおすすめです。
「しずかな日々」椰月美智子
野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞をダブルで受賞している作品です。物語は小学校5年生の主人公が夏休みを祖父の家で過ごして大人に成長していく様子が描かれています。受験をする子たちからすると、のんびりと祖父の家で夏休みを過ごす様子はうらやましく感じるかもしれません。しかし、なかなか経験できないからこそ、イメージできない部分もあり、事前に文章を読んでおくと情景も理解しやすく問題が解きやすくなります。
長く出題されている文章でもあり、最近では中学受験対策の国語教材でも文章が掲載されているほどメジャーな作品です。入試で出尽くした感があり、出題されることは減るかと思われていましたが、設問を作りやすい文章であることや、内容のすばらしさから長く受験では出題され続けています。文庫本は「入試問題に出る作品第1位」という帯が付けられて販売されています。
「みかづき」森絵都
作者の作品は中学受験でとても多く出題されています。中でもこの作品は昭和から平成にかけての学習塾を舞台にしている作品です。学習塾の経営で奮闘する家族の波乱を三世代通じて描いており、長編ですが続きが気になり読破することができるでしょう。
作品は作者渾身の長編とされているだけあり、読みごたえもありますし感じ取るものも膨大です。その反面、読書が苦手な子にとっては長さと内容から、ハードルが高い作品ともいえます。そこで、手軽に読みやすいものから読んでみたいという場合には「宇宙のみなしご」「アーモンド入りチョコレートのワルツ」「カラフル」など思春期の子たちが興味関心を持ちやすい題材を取り扱っている作品から手に取るのをおすすめします。
「君たちは今が世界」朝比奈あすか
開成や海上などの難関校でも多く出題されている作品です。1つのクラスの中でいじられ役、優等生、問題児、クラスの女王という4つの立場の子たちそれぞれにスポットライトを当て、皆が苦しみながらも自分の居場所を見つけていく様子を描いています。この作品も4編で構成されており、自分の立場に置き換えて考えやすい点からも、程よい長さである点からも日頃から読書をしていない子でも手に取りやすいです。
作者の作品は他にも「人間タワー」という作品も中学受験でよく出題されています。小学校で昔は取り組まれていた組体操を背景に親や子ども、教師の思いを描いており、こちらの作品も1つの話に対する複数の立場からの考えが描かれていることで視野が広がる作品となっています。
「さざなみのよる」木皿泉
2019年に本屋大賞にノミネートされている作品です。ガンによって「小国ナスミ」という43歳の女性が亡くなることからストーリーが始まります。彼女を取り巻く同級生や親族など、一話ごとに登場人物が変わり話が展開していき、彼女がいたことでたどり着いた今や彼女がいなくなったことで出てきた未来が描かれており、一話ごとに雰囲気の変わる文章は一気に引き込まれていきます。
作者は「野ブタ。をプロデュース」や「昨夜のカレー、明日のパン」などの人気作品の脚本でも知られています。作品も中学受験では出題されている人気作品です。読んでおもしろかったら、ぜひ他の作品も目を通してみましょう。読書の後に映像作品で楽しむのおすすめです。
「きみの友だち」重松清
中学受験に出題される文章として外せない作者の一人です。たくさんの作品が中学受験はもちろんのこと学習塾の教材でも取り扱われています。中でもこの作品は中学受験で出題されるテーマがふんだんに盛り込まれています。
作品の中には思春期特有の矛盾した気持ちや、文章の裏に隠れている心情、比喩表現とったものが豊富です。そのため小学生の場合には、一度読んだだけでは読み取れない部分が出てくることもあります。そこで、この作品は親子で読んで「この場面ってこういう気持ちなのかな」「ここはこういうことを伝えたかったんじゃないかな」といった意見をシェアする機会を設けるとよいでしょう。
この作品以外にも「小学5年生」「きよしこ」など頻出作品があります。文章も読みやすいものも多いので気に入って作品をいくつか読もうと考える子もいますが、作品によっては小学生には難しいもの、まだ早いと感じるものもあります。そこで、手に取る前に保護者がアドバイスをすることが望ましいです。
読書習慣を身につける方法とは?ご家庭でできる工夫を紹介
読書をすることはメリットがありますが、無理強いをして読ませても効果はありません。ただ活字を目で追うだけで、内容が頭に入らず終わってしまうことも少なくないです。そこで、子どもたちが少しでも自発的に読むことができるよう、興味関心を持ちやすいものから読むようにしたり、場合によっては先に映画を一緒にみて、その後に原作小説を購入し、子供と一緒に読むようにしたりといった工夫をするようにしましょう。
その他にも、本に触れるきっかけを作る方法として、リビングに大きい本棚を置いて、様々なジャンルの本を置いて、気になった本をいつでも手に取れるようにしているご家庭も多くいました。
また、読書をすることで勉強時間を削ってしまっては本末転倒です。そこで学校の朝の読書時間を利用したり、塾のお迎え待ちの時間や食事ができる前の待ち時間を利用したりと、すき間時間を使って上手に読む時間を作ることができるよう配慮をするようにしましょう。小学校低学年から少しずつ読書習慣を作り、読書が受験勉強の合間の息抜きになることが理想です。
まとめ
今回は中学受験にあたり、読書習慣を身につけるメリットと、読んでおきたい本を紹介しました。文章読解の力を養ったり、受験で有利に働いたりといった効果もありますが、それ以上に読書をすることで視野が広がったり、悩みが解消したりという効果もあります。思春期になると保護者の言葉を聞かなくなりがちですが、同じ話でも保護者が口にするのではなく本で目にするとストンと心に落としやすいこともあります。
中学受験で多く出題される文章は良質で内容としても思春期に響く内容ばかりです。受験で役立つことはもちろんですが、子どもたちにとって読書によって得られるものも多くあるので、ぜひ積極的に読書の機会を設けるようにしましょう。無理強いして読ませても身にならないので、はじめは中学受験に関係なく手に取りやすいものから読んだり、映像作品を見ることから始めたりといった工夫をするのもひとつの方法です。